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「木目込みは造形の美です。」 木目込みの雛人形、その最高峰「賢一」の魅力について尋ねてみたところ、二人の人形作家がそれぞれ異なる言葉で、同じことを答えてくれました。 皆さんが想像する雛人形といえば、お座りの姿で美しい衣装を身に纏った「衣装着人形(いしょうぎにんぎょう)」が一般的ですね。この衣装着人形と並び称されるのが、木目込みの技法で作られる「木目込み人形」です。
木目込みは、桐の粉を使って型に入れ、固めて形作る伝統工芸。その歴史は300年以上にも及びます。この技法を守り、後世に伝えることに尽力しているのが、人形の街として名高い埼玉県岩槻市。岩槻の町を歩けば、駅前や市街地に並ぶ人形店の数々が、この地が人形の街であることを物語っています。そして、岩槻の木目込み人形の歴史に革命をもたらしたのが、人形作家「鈴木賢一(すずきけんいち)」です。その影響は大きく、岩槻の人形の歴史を「賢一以前」と「賢一以後」に区分けできるほど。 そして賢一が何よりも重視したのは、「木目込みの造形の美」だったのです。
「賢一先生から学んだことすべてが私の財産」です。 鈴木賢一に師事し、助手として技巧を学んだ木目込人形作家ゆかりさんはそう語ります。 「雛人形の魅力は、その丸み。でも、その丸みを際立たせるのは直線なんです」 鈴木賢一の手掛けた雛人形の型はまさにその絶妙なバランスが感じられるもの。そして、その美しい形状が「造形の美」として多くの人々を魅了しているのです。
その立雛飾りの姿は、ツルが空に舞い上がるかのようなエレガントな形。曲線と直線が見事に調和しています。スマートで洗練されたその姿には、素晴らしい造形だけでなく高級な衣装の存在感も際立っています。 特に、賢一の名前を持つ立雛飾りには、上質な正絹(しょうけん)のみが使用され、中には龍村美術織物の名品、龍村裂(たつむらぎれ)を纏った雛人形もあるのです。
「人形作りは専門の職人による分業なんです。」 人形の頭部を作る職人、頭師(かしらし)の井野さんは人形作りのすべての作業ができる数少ない人形作家。鈴木賢一にも学び、人形作りに携わり50年以上。その技術の蓄積から、賢一の雛飾りの頭部の制作を任されている。 頭師のところに頭部が来る前にも、「頭づくり」や「胡粉ぬり」といった工程があり、木目込み人形全体では9から14もの工程があります。 頭師の作業工程は「面相(めんそう)描き」・「毛葺き(けぶき)」と人形のお顔や生え際の頭髪を極小の筆で書き入れる作業です。一度描き始めればやり直しは効かない。そんな緊張感の中での作業を集中して行います。1つの頭部への毛葺きにも、100筆以上も筆を入れる。一度乾かしてから、その作業を2回以上繰り返す手間のかかる作業のため、1日に作れる頭部は多くても20個程度。
「すべて手作業で手作りなんです。人形って」 毛葺きの作業を実演してくれた井野さんは、木目込み人形作りの工程の多さと、そこに携わる人の多さを語ってくれました。 1体の人形が完成するまでに、それぞれに熟練の技術をもった専門の職人が何人も関わっている。素材や道具も手仕事であり、1体の人形には何十人という人の力が必要となる。 長い伝統を受け継ぎ、長い年月の修練を積んだ何十人もの職人の技術を集結させた木目込み人形は、一言で言い表すなら「家に置ける文化財」です。
岩槻が、木目込み人形の街として知られるようになったのには、ひとえにその地の恵みに理由があります。 桐の木が豊かで、水も良質という環境。木目込人形づくりに最適な要素がそろっていたということから、人形作りに携わる人々が少しずつ増えていき、岩槻には人形作りの基盤がしっかりと築かれました。多種多様な技術を持つ職人たちが一ヶ所に集い、そこに根を下ろした職人たちが、次世代の担い手を育む。この繰り返しが、技術を磨き上げ、やがて文化財と呼ぶにふさわしいほどの域に達したのです。そして、木目込み雛人形の完成形である「賢一の型」にたどり着いたのです。
木目込みに限らず、雛人形には本来の役目があります。 それは子どものお守りとしての形代(かたしろ)、つまり災厄を身代わりに受けてくれるという役目です。形代は平安時代にはじまり、最初は草や紙でつくられていましたが、その頃の形は大の字の形で、ちょうど立雛と同じフォルムです。女の子に降りかかる災厄を引き受けて、お守りとして、身代わりとなる役目を果たした雛人形は、感謝を込めて人形供養でお焚き上げされます。しかし、木目込人形 賢一が人形供養に持ち込まれることは稀だと言います。木目込み人形は、型崩れしない硬い素材でできており、年月が経ってもその美しさを保ちます。賢一の雛人形には正絹のみが使用される為、その生地も長持ちします。実際、30年前に購入したお客様から修理の依頼が来ることもあるほどだといいます。
「良いものを長く使う」という考え方は、そのものが本当に良質であることが大前提です。木目込み人形は、衣裳着人形のようなふわふわしたものではなく、大人の目にも魅力的な存在。実際、購入されるお客様の約半数はリピーターだと言います。 親から子、そして孫へと受け継がれるこのサイクルは、人形を作る側の伝統と技術のリレーに似ています。人形を作る人がいて、それを使う人がいる。この両輪が安定して回転し続けているからこそ、私たちは今日までこの美しい伝統を享受できているのです。
現代では和服を普段から着ることはほとんどありません。 成人式ではじめて和服を着るという方も多いかもしれません。そんな現代の状況の中で、木目込人形 賢一は日本の伝統文化を学ぶ機会を与えてくれます。生活の中にお手本となる本物の和装の雛人形がいることで、和服の美しさや、柄の魅力、日本の伝統文化を自然に学ぶことができるでしょう。
海外からの訪日者は日々増え続け、また、日本から海外へ留学や旅行をする人も同じく増え続けています。どこの国の人と接しても、どこの国にいっても、自分の言葉で自国の文化を表現するには、和の美意識を身につけていることが大切です。どこにいても自分らしさを支えてくれるのは、生まれ育った国、日本の伝統と文化です。暮らしの中、生活の中で、日本の伝統文化を自然に学ぶ体験を、子どものうちから経験させてあげることは、子どもさん、お孫さんへの何よりの贈り物となるでしょう。
1000本以上の記事を書いてきました。多彩な職種を経験し、色々なことに興味を持っています。伝統文化や冠婚葬祭、テック系から飲食まで、新しいモノやコトをテンポ良く読みやすい文章で伝え、別の視点・新しい切り口で読者に伝えることを心がけています。
from : 埼玉県飯能市
木目込人形 賢一の立雛飾り「寿々喜雛 祥 龍村裂」は、見る者を古の時代へと誘う美しい立雛です。 お殿様の顔は手描きの温もりが感じられ、熟練の筆仕事によって細部まで丁寧に表現されています。繊細に重ねられた細い瞳は、古の雛の面影を感じさせます。彼の衣裳は京都龍村美術織物の『五葉華文』で、すっきりとした立ち姿が際立ちます。 お姫様の顔は凛とした目元と女性らしいおちょぼ口が特徴です。ほんのり染まる頬紅が愛らしさを加えています。衣裳は京都龍村美術織物の『鴛鴦唐草文錦』で、曲線と直線の美しい造形が印象的です。 龍村美術織物の中でも特に人気のあるおしどり柄を使用し、パノラマケースには研ぎ出しの技法が施されています。古き良き時代の雰囲気を現代に伝える、まさに芸術的な雛人形です。
writer : 南 一実 from : 東京都中野区
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