【岩谷堂箪笥】美しくも実用的 先人たちが創意を凝らした民芸家具【岩手県 奥州市】

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木工や鋳物、漆工芸等、藤原氏の歴史が残る奥州市

岩手の県南南地区に位置する、奥州市。2006年2月に、水沢市・江刺市・前沢町・胆沢町・衣川村の5市町村が合併して出来たまちで、現在およそ5万2千人ほどの人びとが暮らしています。
観光地として「歴史公園えさし藤原の郷」が広く知られており、大河ドラマのロケ地となることも。また、キャンプ愛好家に人気の「種山高原星座の森」もあり、歴史の情緒や自然の雄大さを肌で感じることのできる地域です。
世界遺産のある平泉町は全国的にも有名ですが、この奥州市と隣接していることはあまり知られていません。その昔、産業奨励に力を注いだ偉人である藤原清衡が、平泉に移る前に現在の江刺地区(岩谷堂)を拠点としていた経緯があり、奥州市も古くから木工や漆工芸、鋳物といった工芸が盛んな地域なのです。
著名な工芸品の「岩谷堂箪笥(いわやどうたんす)」も、そんな奥州の伝統を汲んだ、味わい深い民芸家具となっています。

婚礼家具として重宝されてきた、からくり箪笥

欅や桐、杉でできた岩谷堂箪笥は、堅牢で重厚感漂う衣装箪笥や食器棚がおなじみ。
生活に密着した工芸品であったため、地元の方にも古くから愛されており、若い世代の方でも一目見れば「おばあちゃんの家にある和箪笥と同じだね」と、すぐに分かるほどです。
現在も、なお改良が進められ、TVボードなど実用性のある作品が、次々と登場しています。
かつては嫁入り箪笥として人気を博し、婚礼の際に親から子へ贈られていました。なかには“からくり箪笥”もあり、嫁ぎ先で万が一のことがあったときのために、我が子を守るお金をひっそり入れていたのだとか。持ち主が特殊な順番で引き出しを開けなければ出せないというユニークな技巧は、今の岩谷堂箪笥にも残っています。
現代では、日本伝統工芸士会作品展で賞を受賞するなど、国内での実績も多数ある岩谷堂箪笥。近年は海外でも人気を博し、外国人の方からのオーダーも舞い込むそう。

岩谷堂箪笥がどのようにして生まれたか、足跡を辿る

岩谷堂箪笥の歴史を紐解いてゆくと、発祥は1100年代にまで遡ります。当時は現在のような箪笥の形ではなく、大型の箱のような形でした。
1780年代になり、岩谷堂城主の岩城村将が家臣の三品茂左衞門に木工家具を研究させます。このときつくられたものが原型となり、のちの岩谷堂箪笥につながってゆくのです。時は流れ、1800年代後半には、岩谷堂箪笥は次第に一般家庭にも普及。需要が拡大し、北上川などを利用して東北各地に出荷されてゆきました。
1955年以降は、一時期岩谷堂箪笥の生産が低迷してしまいます。しかし、時代に流されることなく伝統の技を守り抜き、苦境を乗り越えることに成功。
1982年に、経済産業大臣指定の伝統的工芸品の指定を受け、奥州市江刺地区(岩谷堂)の地場産業として、その後も長く根付いていったのです。

原木の製材から漆塗り、金具づくりまで

岩谷堂箪笥づくりの工程のはじまりは、まず原木を製材するところから。形が狂ってしまわないよう、切り出した原木は数年間風雨にさらし、自然に乾燥させます。ここから素材を採り、箪笥の組み立て作業や細工を施してゆくのです。
全体の形が組み上がったら、次は漆の塗装工程へ。塗っては拭き、磨きを繰り返す「拭き漆塗り」や、木目の美しさを追い求める高度な「木地呂塗り」で、岩谷堂箪笥独特の美しい赤みを表現してゆきます。
そして、もうひとつの大きな特徴である金具づくりの工程へ。驚かれるかもしれませんが、実は金具の模様は手打ち彫りでつくられています。また、同じく奥州市でつくられる鋳物、南部鉄器製の金具が使われることも。
重厚で剛直な雰囲気のある和箪笥に、この金具たちが豪快に華を添え、皆の知る岩谷堂箪笥となってゆくのです。

奥州の歴史を紡いだ和箪笥は、未来へ継承されてゆく

もし、岩谷堂箪笥を間近でご覧になりたいときは、奥州市江刺の愛宕地区にある「I.T.S 岩谷堂タンス製作所ショールーム」へ足を運んでみましょう。1782年の創業以来、岩谷堂箪笥をつくり続け、展示販売をしているところで、伝統技術の体験として小さな箪笥づくりも行えます。
一方、岩谷堂箪笥生産協同組合が運営する「岩谷堂くらしなオンラインショップ」には、現代の生活に合うようなモダンなデザインの岩谷堂箪笥も。和のインテリアがお好きな方は、ぜひ一度覗いてみるとよいでしょう。
先人たちの創意工夫を、たしかな伝統として継承する岩谷堂箪笥。使えば使うほど、そして年月が経てば経つほど、漆本来の美しさが出てくるのが魅力です。
また、古くからの技巧を応用してできた現代版の和モダンな家具からは、この工芸品の未来をも感じることができます。岩谷堂箪笥は、これからも我々の生活に寄り添い続けてくれることでしょう。

紡ぎ手:Sayuri Shirasawa

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