【江戸節句人形】子どもの健康を願う、写実的な節句人形【東京都 足立区】

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江戸の伝統が息づく、ものづくりの街

下町の風情を残し、落ち着いた雰囲気を持つ東京都足立区。東京23区の北東部に位置し、隅田川、荒川、中川など多くの川に囲まれた街です。河川敷を覗いてみると、家族連れや散歩をする方々が見られ、夕方には夕日の沈むオレンジ色の空と川とのコントラストが絶景です。
そんな足立区は、水運が主な交通手段であった江戸時代に物流拠点として栄え、大勢の職人が移り住みました。今では2,000を超える町工場を抱え、東京屈指のものづくりの街となっています。
その中でも特に注目されるのが「江戸節句人形」。歴史と技術が融合し、繊細なつくりの江戸節句人形は、足立区の魅力を語るうえで欠かせない存在です。

実物を思わせる精巧で写実的な人形

日本の豊かな四季の節目を祝う「節句」。中でも子どもの健やかな成長を願う代表的な行事として、桃の節句と端午の節句が有名です。江戸節句人形は、そういった行事を彩る雛人形や五月人形などの衣装着人形と、甲冑の模型である甲冑形を総称しています。
華やかで優美さが光る衣装着人形に対し、甲冑は本物を模した落ち着いた重厚感が特徴です。かつて実戦に用いられた甲冑と同じ制作技法や素材が取り入れられており、実用性重視であった実物にできるだけ忠実に再現されているのです。中には時代ごとの些細な違いまで繊細に表現されているものもあります。
こうして職人が一体ずつと向き合い、生命を吹き込むごとく丁寧に作りこむことで、写実的で精巧な江戸節句人形が生まれるのです。

時代に合わせ姿を変え、長く愛されてきた

江戸節句人形の制作は、江戸時代初期に京都の影響を受けて始まりました。当初主流であった「享保雛」は現在の姿に比べて大型で、屋外に飾るための華美なつくりでした。しかし、のちに幕府が贅沢品として取り締まったことで、徐々に敬遠されるようになります。
そして今から約250年前、庶民的面持ちが特徴の「次郎左衛門雛」の人形師が京都から江戸に移り、人形店を開いたことで、江戸独自のスタイルが発展していきました。
江戸独自のスタイルが確立すると、次第に庶民の生活に根付くようになります。その背景には、江戸時代の商業の発展や文化の成熟がありました。人形制作の技術は急速に発展し、多くの家庭で節句の象徴として飾られるようになります。職人たちは創意工夫を重ね、屋内でも飾ることのできるよう小型化しつつ装飾性を高め、より多くの人々に手がとどく価格帯を実現しました。江戸節句人形は、家族との歴史や思い出を紡ぐ大切な存在として、今でも多くの家庭で愛されています。

職人技が光る江戸節句人形の制作工程

江戸節句人形の制作作業は、衣装着人形と甲冑形で異なります。
衣装着人形の完成まで、6つの工程(頭づくり→髪付け→衣装づくり→胴組み→肉巻き→振り付け)を経ています。頭づくりの工程では、まず木彫りや粘土でつくったお人形の頭部の原型に桐塑を上塗りし、筆で面相を施して完成します。そこに黒く染めた絹を用いて髪を結います。
頭部に合わせて胴体・衣装の寸法を決めたあと、衣装づくりにおいては、生地に和紙を裏打ちし、型紙で切り抜いて縫製します。
胴組み・肉巻きでは、桐の木に針金を差し込むなどして手足の軸をつくり、胴に松の木毛を巻きつけ形を整えます。そこに衣装を着せ、頭部を取り付けると完成です。
一方、甲冑形も6つの工程(鉢づくり→しころづくり→威し→絵革づくり→金具づくり→まとめ)で制作されます。
まず銅と亜鉛の合金である真鍮の板を切り抜き、金槌でたたいて整形、鉢状に組み上げます。
強靭な甲冑を制作する上で最も重要な要素が「小札」。小さな短冊状の板を指します。兜の部位の一部で頭部を守る目的の「しころ」も、この小札を綴り合わせてつくられます。絹製の組紐や革で小札板を上下に結びあわせていくのが威しと呼ばれる作業です。
絵皮づくりの工程では、吹き返し部分などに捺染と呼ばれる技法で縁起の良い絵柄を施した革を貼り付けます。
さらに、手作業で各所に取り付ける金具を作成し、部品をつなぎ合わせたら完成です。

だれかを大切に思う気持ちを、江戸節句人形に込めて

時代を超えて受け継がれてきた伝統と技術が凝縮された江戸節句人形。
多くの家庭で長く愛されているのは、親が子どもの健康を祈る気持ちが今も昔も変わらないことの表れでしょう。
100年以上の歴史を誇る専門店、幸一光では、江戸節句人形はもちろん、並んで愛される「江戸木目込人形」や、新しいスタイルの動物のお人形など、幅広い商品を取り扱っています。また実際に手に取って選ぶことができる工房併設のショールームも用意されています。この機会に、大切な一体を選んでみてはいかがでしょうか。
また江戸甲冑の制作で有名な忠保の甲冑では、創業から50年以上、職人が一品一品こだわって手作りをしています。とりわけ、時代考証の入念さが徹底されており、膨大な資料を調べ上げて、可能な限り忠実に当時の甲冑を再現しています。最近では、江戸甲冑の魅力をさらに広めるべくサムライボトル兜という兜型のボトルキャップを販売。デザインモチーフは織田信長公、徳川家康公など実際の戦国武将の兜です。若い世代や歴史ファンの間だけでなく、海外の方への贈り物など、日本文化の紹介としても重宝されています。ぜひ、伝統を新しい形で楽しんでみてください。

紡ぎ手:Hikari Goya

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