「紬」発祥の地と久米島紬を育む自然豊かな島
沖縄本島那覇市の西方約100㎞に位置する久米島は、人口約7,200人の小さな島です。
豊かな自然と、サンゴ礁の海に囲まれた島で生まれたのが、伝統的工芸品「久米島紬(くめじまつむぎ)」です。
琉球王国時代、大陸諸国の貿易中継地点となっていた久米島。
島の人々は、持ち込まれた養蚕や織物の技術を独自に発展させ、久米島紬を織りあげました。
久米島紬で用いられる制作工程と技術は、日本全国へと広がり、日本の紬文化に影響を与えていったことから、久米島は「紬発祥の地」として知られていきます。
久米島紬は、自然と調和した美しさや模様の選定から染め、織りまでの工程をほとんど一人の織り手が手作業で担っています。
現代まで大切に守り受け継がれてきた技術が、芸術的にも工芸的にも高く評価され、2004年に国の重要無形文化財に指定されました。
久米島の自然が織りなす唯一無二の色彩美
久米島紬を象徴する色といえば、黒褐色や深みのある色合い。
島に自生する植物を活用した「草木染め」と、泥池の泥を使用した「泥染め」を用いた染色技術により生み出されます。
「黒物」と呼ばれる黒褐色の久米島紬は、草木染めと泥染めの工程を合わせて約100回近く行うことで育まれる伝統的な色です。
毎年10月から12月の乾燥した時期に、阿嘉の泥田から採取した泥に含まれる鉄分などの有機質が、草木染めの糸と結合し色を変化させていきます。
「黒物」の他にも、ゆうな(オオハマボウ)と呼ばれる植物から染めた糸が使用される「ゆうな染め」は、淡いねずみ色。草木染めならではの自然な色合いが、透明感のある美しさを感じさせてくれます。
すべての工程を手作業で行っている久米島紬は、気候や環境の変化が、染色に大きな影響を与えます。
織り手は、染色回数や気温、天候を考え、長年の経験と感覚を研ぎ澄ませ、自然と調和し色を宿していきます。
同じ色合いを表現することは難しく、どの久米島紬も唯一無二の色彩美を持っています。
久米島紬の象徴「絣模様」に秘められた伝統と美
シンプルでありながらも、その繊細で美しい絣模様が魅力の久米島紬。
久米島の自然や琉球文化、歴史を背景に生まれた模様であり、長い年月をかけて受け継がれています。
琉球王府への献上品としての歴史がある久米島紬は、「御絵図帳(みえずちょう)」という指図書に基づいた模様が絣柄に使われています。
久米島紬を象徴する絣模様の一つに、飛ぶ鳥の姿を幾何学的に表現した「トゥイグワー」と呼ばれる鳥の模様があります。
他にも、自然や動植物、暮らしを表現した模様もあり、現代では、縞や格子、無地などの洗練された模様も制作されています。
模様が正確に見えるよう織り上げるには、糸を精密に括り染める必要があります。
その精度が仕上がりを左右するため、この工程には高度な集中力と経験が必要になり、織り手の技が凝縮されています。
現代でも「御絵図帳」は大切に保管されており、その模様の組み合わせで伝統的な絣模様が織りあげられています。
手作業の繊細さが織り成す久米島紬の一点芸術品
久米島紬は、図案の選定、染料作り、絣くくり、糸の染め付け、織りのほとんどの工程を、一人の織り手が手作業で行っています。
絣模様に織り上げるために、糸に色を付ける部分と付けない部分を細かく染め分けていきます。
色を付けない部分に、木綿の糸を巻き付ける「絣くくり」という工程は、非常に繊細で根気のいる作業のひとつ。
現代では、機械を使用して行うことが多くなっていますが、久米島紬ではこの工程をすべて手作業で行っています。
作業工程の最後では、織りあがった反物を杵(きね)で叩き続ける「砧打ち(きぬたうち)」という作業を行います。
何百回と叩き続ける重要な工程である「砧打ち」を行うことで、紬全体に絹織物独特な光沢がうまれ、身体に着物が馴染みやすくなるのです。
織り上がった久米島紬は、織り手の個性が反映され、量産では表現できない一点ものの美しさが特別な存在感を与えます。
「宮原紬株式会社」では、「黒物」や「ゆうな染め」の久米島紬を多く取り揃えているため、自分に合った久米島紬を見つけることができます。
伝統と現代が織りなす久米島紬の新しい形
今もなお、伝統が受け継がれている久米島紬は、品質を維持するため検査員による厳しい審査を行っています。
久米島紬の歴史や作業工程などの展示を行っている「久米島紬の里ユイマール館」では、実際にコースター織りやバンダナ草木染めの体験を楽しむことができます。
現代では、久米島紬の伝統的な染めや織りの技法を活用した名刺入れや、沖縄の催事ごとで着用する「かりゆしウェア」など日常で使用できる製品もつくられています。
売店でのみ取扱いしている久米島紬の反物や、加工品の展示販売もしており、贈り物としても、自分用としても一点ものを選ぶことができます。
久米島紬は、一貫織物ではなく、久米島の自然と人々の暮らし、そして歴史が詰まった織物です。この織物がこれからも多くの人々の手によって紡がれ続けることを願っています。
紡ぎ手:久遠 彩夏