【雄勝硯】伊達政宗公も認めた 重厚で優美な石づくりの硯【宮城県 石巻市】

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農作物も海産物も 自然に恵まれた石巻市

宮城県の北東部、北上川の河口に位置する石巻市。現在の人口はおよそ13万人ほどで、仙台市に次ぐ第二の都市となっています。
その昔、伊達藩の統治下では水運交通の拠点として名を馳せた交易都市で、現在に至るまで農作物・海産物に恵まれた“食”を楽しめるスポットとしておなじみです。
観光地としては、漫画家石ノ森章太郎の作品を展示する「石ノ森萬画館」や、金運のご利益で知られる奥州三霊場「金華山」もあります。
そんな石巻市に昔から伝わる工芸品が「雄勝硯(おがつすずり)」。1982年に宮城県知事指定伝統的工芸品に選定され、1985年には経済産業大臣指定伝統的工芸品にも認定された、歴史ある工芸品です。

深黒色と石肌の重厚感が漂う石工品

雄勝硯は、宮城県石巻市産の「雄勝石(玄昌石)」を用いてつくられます。粒子が緻密で均質な特徴を持ち、耐久性に優れた素材です。
この雄勝石を職人たちが熟練の技で彫り出し、どこか奥深さも感じさせるフォルムへと完成させてゆきます。気品ある深い黒色とその石肌が、わたしたちに見飽きることのない優美さを感じさせてくれるのです。
歴史ある工芸品でありながら実用性も兼ね備えており、現代でも高い評価を獲得するほど。2012年には、石巻市にある株式会社澤村製硯の「風字硯」がグッドデザイン賞を受賞しました。
近年は、雄勝石の性質を生かして調理用プレートやテーブルウェアといった石工品づくりも盛ん。イタリアの「ミラノ国際博覧会」で石皿を出展したり、G7の会合「7カ国財務相・中央銀行総裁会議」で酒器を披露したりと、国内外で大きく活躍しています。

かの伊達政宗公も認めた硯の歴史とは

この硯の発祥は、1600年代の室町時代にまで遡るとされています。独眼竜で知られる伊達政宗公に献上した記録が残っているのです。政宗公には大変称賛され、褒美まで賜ったとされています。
さらに、2代目の忠宗公も雄勝硯の技巧を認めており、硯師を伊達家お抱えとしたほど。原料が採れる山は、一般の方の採石が禁じられた歴史もあるのです。
こうして、技巧が認められた雄勝硯は、歴史の変遷とともに、やがて国産硯の9割ものシェアを占めるほどに。1980年頃には、学童用の硯として国内の需要を広く支えていました。しかし、墨に変わって墨汁が普及しはじめ、その後硯の需要は激減。生産量は全盛期の1割ほどとなってしまったそう。
それでも高級硯に特化した生産は続いており、伝統ある匠の技が今の時代にも受け継がれているのです。

雄勝石を手作業で彫ってつくられる硯

伝統的な雄勝硯づくりは、雄勝石の砕石、切断からはじまり、砂すり、彫り、そして磨き、仕上げといった工程で行われます。
職人たちが石を掘る際には、肩に当たるほどの大きな鑿(のみ)を用い、体全体の力を使って表面を削ってゆきます。工具は各々の身体に合うよう、独自のものを持つのだとか。墨を削る際にヤスリの役割を果たす「鋒鋩(ほうぼう)」の具合が絶妙なのも雄勝硯の魅力のひとつですが、ここも職人がひとつひとつ手触りを確かめながらつくるため、墨を良い状態で擦ることができるのです。
素材である雄勝石の風合いをご自身の手で体感するなら、仙台市で東北・宮城の工芸品を扱う「こけしのしまぬき本店」へ足を運んでみましょう。「雄勝石手作り体験」が実施されており、雄勝石にフェルトペンで自由に絵柄を描くキーホルダーづくりが経験できます。

伝統の職人技とその軌跡をじっくり堪能するなら

雄勝硯について深く知るなら、石巻市の「雄勝硯伝統産業会館」を訪れてみましょう。「道の駅 硯上の里おがつ」の雄勝観光物産交流館と併設されており、硯と人びとの暮らし、制作工程、地場産業としての軌跡などを、展示を通して学ぶことができます。
また、雄勝石加工を販売しているギャラリーも。雄勝硯はもちろんのこと、テーブルウェアなどの生活用品も、実際に手に取って魅力を知ることができます。
遠方のために直接現地を訪れることができない方は、雄勝硯生産販売協同組合のオンラインショップへ。さまざまな形状・大きさの雄勝硯がラインナップされており、お好みのものを選べるようになっています。また、箸置きやお香立てといった生活用品も購入可能です。

雄勝石でできた石工品の魅力をその手で体感して

伝統的工芸品に指定されている文房四宝(筆・墨・硯・紙)をメインに据えた「文房四宝まつり」という催しもあります。
文房四宝の産地である広島県熊野町、三重県鈴鹿市、宮城県石巻市、鳥取県鳥取市の実行委員会によって二年に一度開催され、制作実演や体験、物販などが行われるのです。
実施回ごとに開催地域が異なり、2022年の第21回は宮城県石巻市雄勝町、2024年の第22回は東京都台東区浅草で行われました。これまで書道を嗜まれてきた方はもちろん、石工品にご興味のある方も、伝統文具の魅力を体感しに足を運んでみてはいかがでしょうか。
重厚感がありながらも、優美さも兼ね備えている、雄勝硯。深黒の美しい石肌からは、天然の石工品ならではの風合いと職人たちの熟練の業を感じることができます。あなたもぜひ、この美しい工芸品の奥深さに触れてみてください。

紡ぎ手:Sayuri Shirasawa

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