【紀州漆器】伝統と新たな技術でつながれるもの【和歌山県 海南市】

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強さと美しさを生み出すまち

和歌山県海南市。
人口約47,000人、西域に紀伊水道をのぞむ温暖なまちです。
しらすや鱧など海の幸が豊富で、全国に知られる蔵出しみかんの産地として知られています。
長保寺本堂、和歌山藩主徳川家墓所など文化財を擁し、ところどころに時代の名残を感じられる佇まいはとても魅力的です。
紀州漆器は、海南市の北西部・黒江地区を中心に作られています。
福島県の会津塗、石川県の「山中塗・輪島塗」と並び、三大漆器のひとつとして数えられる伝統工芸品です。産地の名称を取って黒江塗とも呼ばれています。
美しいデザインもさることながら、機能性と耐久性に優れており、特に水回りで使える商品を多く出荷しています。
華やかさと品格が共存する紀州漆器。
暮らしを彩る美しい器がどのような軌跡をたどったのかを見ていきましょう。

木地師と僧の「うつわ」

紀州漆器の起源は、室町時代に紀州の木地師(きじし)が渋地椀(しぶじわん)を作ったのが始まりといわれています。
木地師とは、トチ・ブナ・ケヤキといった広葉樹の木からお盆やお椀、こけしなどを作る職人のことです。また、渋地椀とは、柿渋に木炭の粉を混ぜて下地とした椀を指します。
この渋地椀に加え、和歌山県岩出市にある根来寺(ねごろでら)の僧侶たちが自分用に作ったお膳やお椀、お盆といった「根来塗」も紀州漆器に影響を与えています。
根来塗は、朱塗りの表面から下地の黒が浮き出た文様が特徴です。使っていくうちに表面の朱塗りが摩耗し、下塗りの黒漆が表に現れます。すると朱と黒の文様が浮かび上がり、その上品な趣はたいそう喜ばれたようです。
そうした中、戦乱の世は兵力の高い根来寺を見逃してはくれませんでした。
僧でありながら、その武力を重く見た豊臣秀吉が根来寺に攻め入ったのです。
このとき逃げ延びた僧たちが黒江にたどり着き、漆器づくりが広まったといわれています。

技術革新による目覚ましい発展

江戸時代になると、紀州藩の保護のもと、紀州漆器は暮らしに溶け込みがら大きな発展を遂げました。
1826年(文政9年)、小川屋長兵衛が膳などの堅地板物の製作を成功させ、後の安政時代においては蒔絵による装飾がおこなわれるようになりました。
明治維新によって紀州藩の保護は失われたものの、1870年(明治3年)に本格的な海外貿易に乗り出したのを機に、勢いを盛り返していきました。
さらに、1879年(明治12年)に沈金の装飾技術を導入。沈金とは、加飾技法のひとつで重要無形文化財にも指定されている伝統的な技術です。その後、京都より蒔絵師を招き、蒔絵の改良にも取り組みました。
昭和時代になると、天道塗・シルク塗・錦光塗などの変り塗が次々に生み出され、紀州漆器は時代と共に変容を繰り返していきます。昭和24年には重要漆工業団地として、さらに昭和53年には、通商産業省(現在の経済産業省)より伝統的工芸品として指定されました。

紀州漆器の製造工程

ここで、紀州漆器が生まれる工程を見てみましょう。
「樹脂製品」「木製品」で工程は分かれます。
<樹脂製品>
樹脂製品は、樹脂原料を型に入れ、熱と圧力を加えて成型します。
次に研磨の工程です。樹脂の表面を丹念に磨き上げます。塗料と樹脂の密着性を高める目的です。
次に、ウレタン塗料を使って表面を仕上げます。こうしてできた漆器に、さらに塗料や代用金粉を使い、機械で印刷します。
<木製品>
適度な大きさに裁断した木端を、水分が飛び変形しなくなるまで寝かせます。次に、鋸やカンナで重箱や硯箱など形を作り、補修を加え整えていきます。
形ができたら下塗り・中塗り・上塗りと塗装を重ねます。耐久性を高める大切な工程です。
ここまできたら、金や色漆を用いた加飾工程に入ります。一つひとつ、手作業で細やかに装飾がほどこされます。

「うつわ」に魅せられる場所

庶民の実用品として親しまれてきた紀州漆器ですが、古くから伝わる根来塗とは違う顔も見せてくれます。
蒔絵などで彩られた漆器や、合成樹脂素材を使った大量生産品など、時代の移り変わりから生まれるニーズに応えながら、今も進化を続けているのです。
紀州漆器が栄えた黒江地区は、かつて漆器職人たちが暮らした家や問屋が並びます。懐かしさを感じさせる黒江のまち。そこには紀州漆器の魅力を伝える施設やお店もあります。
うるわし館は、スタンダードな根来塗の漆器だけでなくアクセサリー類なども購入できます。さらに事前予約で漆器蒔絵体験も可能です。
黒江ぬりもの館は、築180年の古民家カフェです。江戸時代の塗師の作業場兼住宅を改装して運営されています。
店内では漆器に盛り付けた食事やスイーツを楽しめるほか、クリエイターの作品を購入できます。また、多彩なワークショップも見逃せません。

紀州漆器の世界を彩るひと・もの・こと

現在の紀州漆器は、多くの企業や個人の力で支えられています。
複数の会社が手を取り合って立ち上げたブランド「KISHU+」は「先端工芸」をキーワードに、新たな技術を取り入れた作品を作り出しています。
また、塗り工房ふじいでは、さまざまな表情を見せる作品がカテゴリー別で見られるのが特徴的です。多様なライフスタイルに対応できるでしょう。
毎年11月は、黒江地区の町をあげて「紀州漆器まつり」が開かれます。
黒江川端通りをメイン会場にすえ、問屋が集まる漆器市やグルメを楽しめるブースが所狭しと並び、大変にぎわうイベントです。
当日は紀州漆器CUPと称してミニ四駆大会が開かれたり、蒔絵体験ができたりと、大人も子供も楽しめるお祭りとなっています。
室町の頃より、人々の暮らしの中で息づいてきた紀州漆器。
その変化は時の流れに逆らうことなくしなやかです。受け継がれた技術にデジタルの力を融合させた商品の開発もさることながら、地域住民による発信が紀州漆器の認知度に貢献したことは言うまでもありません。
これからの生活に、紀州漆器はどう溶け込んでいくのでしょうか。

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