常滑駅から とこなめ招き猫通りへ
愛知県の空の玄関口・中部国際空港 “セントレア”から電車で約5分、“常滑駅”を降りればすぐ、「やきもの散歩道」の案内看板が見えてきます。
ここは2017年に日本六古窯(こよう)として日本遺産に認定された常滑焼の里です。
「越前」「瀬戸」「常滑」「信楽」「丹波」「備前」の六古窯の中でも、1番古く1番大きいのが常滑の窯でした。「やきもの散歩道」を歩けば、そんな常滑らしい風情を存分に堪能することができます。
やきもの散歩道案内看板から東へ、とこなめ招き猫通りを進むと壁面にはかわいらしい猫の焼き物。常滑市の陶芸作家39名が手がけた “御利益陶製招き猫” を楽しむことができます。
壁面の上には巨大招き猫の “とこにゃん”。その大きさはインパクト大です。そのまわりの “本物そっくりの猫” も11体いて、本当に見間違えてしまう精巧さです。
歴史の風景 焼き物の細道を歩く
招き猫通りから中へ、常滑市陶磁器会館の脇から道幅2mほどのくねくねとした細道を歩いていきます。
工場や民家が立ち並び窯元が隣り合わせ、壁には土管や子どもたちの絵が描かれた陶板レリーフが。自分が今いるのは、間違いなく焼き物の里なのだと感じる小道です。
坂を登ると四角いレンガづくりの煙突。焼き物の里・常滑を象徴する風景です。
その昔、常滑のスズメは煙突の煙で真っ黒で、隣町に行った子どもが黒くないスズメを見て驚いたなんていう笑い話もあるそうです。
歩みを進めると、かなり起伏のある坂道がつづくことに気づきます。上っては下り、上っては下り、その地形に合わせて “板壁に瓦” の古民家がうねるように続いています。
道端に無造作に置かれた土管も、この場所では風景にしっかりと馴染んでいます。
常滑焼を盛んにした3つの好条件
細道をさらに進むと “廻船問屋瀧田屋の屋敷”があります。
ここに、常滑焼が発展し受け継がれてきた理由を見てとることができます。
常滑で焼き物が発展してきた背景には、3つの好条件がありました。1つ目は「土」です。
常滑のある知多半島は、焼き物に適した土が豊富に採れます。鉄分を多く含み、紅殻を加えて焼き上げると常滑焼特有の赤褐色になります。
2つ目は「燃料」です。
かつて常滑周辺には雑木林が多く、焼き物には欠かせない燃料が豊富にありました。
3つ目は「輸送手段」です。
陶器は全体的に重い品物になります。重い品物を一度に大量に輸送できる手段がなくては、産業として成り立ちません。
常滑は海に面し、海運拠点として栄えていました。
“瀧田屋” のような廻船問屋が、船で常滑焼を江戸などに大量に運んだことで、全国に名を知られるようになりました。
国の重要有形民俗文化財の登り窯
瀧田屋の前を通るのは “でんでん坂”。
港の船の様子を屋敷の主人に伝えるための道であったことから、“でんでん=伝々” と名づけられたそうです。
でんでん坂を歩くと壁面には焼酎瓶が所狭しと埋められ、地面には “ケサワ” という土管を高熱で加熱した時に使用した廃材が敷き詰められていて、とてもユニークな通りとなっています。
土管が積み重ねられた “土管坂” も楽しんで、さらにさらに小道を進めば、国の重要有形民俗文化財に指定されている登り窯に辿り着きます。
約20度の傾斜地に造られた登り窯は、全長22m、最大幅9.6m、最大天井高3.1mの堂々たる姿で8つの焼成室を備えています。
まさに焼き物の里・常滑の象徴となるモニュメントです。
常滑焼の起源は平安時代から
やきもの散歩道を歩き、道すがら触れてきた意匠から、この地のもつ歴史の深みを感じます。
常滑焼の歴史は古く、なんと起源は平安時代の1100年代にまで遡ります。実に900年以上の歴史です。
古常滑(ことこなめ)と呼ばれる時代は平安・鎌倉・室町時代を通じて、壺や瓶の主要な窯場として知られていました。
江戸時代に入ると陶芸作家が多く現れ、焼き物の種類が多彩になりました。
江戸末期には朱泥焼(しゅでいやき)が考案され、常滑焼の代表として知られる「朱泥急須」が誕生しました。
明治時代以降になると朱泥製法を生かした茶器だけでなく、土管、植木鉢、タイル、置き物、インテリア用品などありとあらゆるものが焼かれるようになりました。
常滑焼のおすすめは やはり「急須」
常滑焼の特徴として種類の幅広さがありますが、その中でもやはりおすすめしたいのは「急須」です。
常滑の陶芸家・三代目山田常山が人間国宝に認定された品は「急須」です。
生活道具である急須の “作品性” の高さによって人間国宝と認められました。
三代目山田常山のような陶芸家の職人気質は脈々とこの地で受け継がれ、現在も多くの陶工が作品を生み出し続けています。
常滑焼いそべ 、えんける道具店 などの常滑市にあるお店だけでなく、茶器chaki などのネットショップでも実に多彩な常滑焼の急須を見ることができます。
みなさんもぜひ一度焼き物の歴史を感じて、お気に入りの常滑焼を手に日常を彩ってください。
紡ぎ手:かいな