温泉のまちで発展した伝統工芸
大地から湯けむりが立ちのぼり、ノスタルジックな雰囲気が漂う大分県別府市。
緑の山々や別府湾に囲まれた温泉のまちは、源泉数、湧出量ともに日本一を誇ります。
市内には別府八湯(はっとう)と呼ばれる8つの温泉エリアが点在し、それぞれ違う泉質などの特徴を持っています。
また、7つの「地獄」があり、自然の源泉の成分によって赤や青などいろんな色をしています。勢いよく温泉が湧き出す光景は迫力満点です。
古くから日本を代表する温泉観光地だった別府で生まれ育ち、国の伝統的工芸品に指定された伝統工芸があります。それが別府竹細工です。
全国に魅力が広まる別府の竹工芸
別府竹細工の始まりは、1世紀ごろまで遡るとも言われています。
『日本書紀・景行紀』には、第12代天皇と伝えられる景行天皇が九州征伐の帰りに別府に寄った際に良質な竹が多いことを発見し、それらの竹を使って茶碗かごをつくったことが別府竹細工の始まりだと言われています。
17世紀から19世紀には、湯治のための温泉地として別府が知られるようになり、全国から来た温泉湯治客の滞在中の台所用品やお土産として、竹細工が全国各地に広まっていきました。
明治時代になると「竹かご科」がある徒弟学校が設立され、卒業生らが別府の竹工芸を大衆的工芸から美術性の高い作品へと発展させていきました。
1939年には後継者育成のため県立竹工芸訓練センターができ、現在でも全国で唯一竹細工を学べる職業能力開発校として、多くの職人の養成につながっています。
良質な地元の竹にこだわる
別府竹細工は別府市を中心に、主に地元でとれた質のいいマダケという種類の竹を使ってつくられています。
大分県はマダケの生産量が日本一です。強くてしなやかで熱に強く、竹割りと皮剥ぎもしやすいため竹細工に適しています。
竹細工に使用する竹は3〜4年物が適していると言われます。竹を伐採した後は、苛性ソーダを入れた熱湯で15分ほど煮沸し、染み出した油分を拭き取って(油抜き)、天日乾燥させます。天日乾燥することで竹の色が象牙色に変わり、表面に光沢が出ます。
そして必要な長さに切断し、竹を細かく割って竹ひごをつくっていきます。
竹ひごは、半分に割った竹をさらに半分に割るという作業を繰り返していくことでできます。専用の道具を使って竹ひごの厚さや幅を揃えながら仕上げます。中には1㎜に満たない竹ひごもあり、ポイントとなる工程です。
製品は基本的に底の部分から編み始めます。
編み方は何種類もあり、用途やデザインによって変えています。仕上げに漆を塗って完成です。
伝統を組み合わせて編み出される多様な作品
国の伝統的工芸品に指定された竹ひごを編む技法(編組)は8つあります。
「四つ目編み」「六つ目編み」「八つ目編み」「網代編み」「こざ目編み」「松葉編み」「菊底編み」「輪弧(りんこ)編み」です。
これらは全て手作業でつくられ、組み合わせると200種類以上の編み方ができます。
また、この8つの伝統的な編組に限らず、現在編み方は400パターン以上にものぼると言われています。
別府竹細工はご飯の保存に向いている飯かごや、果物やお菓子などをのせるもりかごなど昔から作られている日用品のほか、バッグやピアス、インテリアなど現代的な作品も生み出されています。
竹の世界へ出かけよう
別府市竹細工伝統産業会館では、別府竹細工だけでなく竹の魅力も含めて伝えようと様々な活動をしています。
施設では竹の世界観を楽しみながら竹細工の歴史や技法を学ぶことができ、名工と呼ばれる方々の作品を見ることもできます。ミュージアムショップもあり、竹林を眺めながら飲食したり手軽な製品から美術品まで購入することができます。
一般向けの体験学習やワークショップも実施していますので、チェックしてみてください。
プラスチックが主流の今、竹細工製品は実用的な日用品としてではなく、おしゃれなアイテムとして再び注目されるようになりました。
別府市公式観光情報Webサイト「別府たび」の特集記事では国内外で活躍する職人について紹介されています。
職人の想いに触れ、ご自身のお気に入りを見つけてみてください。
紡ぎ手:Muta Yuka