【浄法寺塗】使うほど美しくなる 歴史の情緒あふれる和食器【岩手県 二戸市】

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岩手県二戸市でつくられる浄法寺塗

岩手県の内陸最北部に位置する、二戸市。およそ2万5千人の人びとが暮らしており、雄大な自然の美しさや歴史の趣が感じられるまちです。
メディアで度々特集される座敷わらしの里「金田一温泉郷」や「亀麿神社」、文部科学省が国の名勝として認定している夫婦岩の「男神岩」と「女神岩」、そして北東北の仏教文化が根付く「天台寺」などがお馴染みとなっています。
そんな二戸市の浄法寺町は、昔から良質の「漆(うるし)」に恵まれた自然豊かな地域で、安比川流域ではこの漆を用いた漆器づくりが盛んに行われてきた歴史があるのです。
浄法寺町の市日で販売されたことから「浄法寺塗(じょうぼうじぬり)」と呼ばれるようになった説や、この地域の有力者である豪族「浄法寺氏」に由来しているという説など、さまざまな伝承が語られる様子もまた、歴史の浪漫を感じさせてくれます。

漆器づくりに欠かせない「漆」とは

漆器づくりに欠かせない「漆」とは、ウルシ科ウルシ目の「ウルシ」という木から採った樹液を精製してできた天然樹脂塗料のこと。「漆掻き」と呼ばれる職人さん方が、長い時間をかけて一生懸命に手作業で採集するのだそう。
硬化後は熱や湿気に強く耐久性に優れているため和食器に使われることも多く、浄法寺塗のお椀や平皿、お盆、茶器などの漆器が展開されているのはご存知のとおりです。
実は、国産漆の出荷量は、岩手県が全国でもトップクラス。とくに国産漆の約7〜8割が浄法寺産だともいわれており、高品質で耐久性のある素材として世界遺産となっている寺院の修復に使われることもあるほどです。
そんな漆が使われている伝統工芸「浄法寺塗」が人びとの生活のなかに溶け込み、今も変わらず愛されているのは、なぜなのでしょうか。

長い歴史のなかで受け継がれた漆工技術

現代の浄法寺塗の歴史を紐解いてみると、発祥は浄法寺町の寺院である「天台寺」とされています。平安時代に中央から派遣された僧侶たちが、自身が使うための和食器をつくるために漆工技術を持ち込み、地元の参拝者の方々と交流する間にその技術も広まっていったというのが通説です。
長い歴史のなかで、工芸が常に順風満帆だったわけではありません。戦後、洋風の文化が流入するにつれて継承が難しくなり、一時は途絶えそうになったのだとか。しかし、浄法寺塗に携わる方々の熱意により、無事に現代まで継承されるに至りました。
多彩な技術が継承されている、浄法寺塗。なかでも、とくに広く親しまれているのは、本朱や黒、溜色など趣のある色で鮮やかに彩られた、無地の漆器ではないでしょうか。光沢感を抑えてあえてマットに仕上げられており、つるりとしたなめらかな質感が魅力。
自然の素材からできた温もりと堅牢さ、美しさを感じさせてくれる工芸品なのです。

日本遺産、ユネスコ無形文化遺産登録へ

長きに渡り生活を共にできる浄法寺塗は、使えば使うほど表面の光沢感が増すのが人気の理由です。その味わいは、2020年に初版が発行された三浦春馬氏の著書「日本製」にも登場し、“経年美化”と評されているほど。
そして、同年に安比川流域に受け継がれている伝統の技術は「日本遺産」に、浄法寺町を中心に受け継がれた漆掻き技術も「ユネスコ無形文化遺産」に登録されるなど、歴史的・文化的価値が、徐々に認められ始めています。
翌年2021年には、NHKの紀行番組「世界はほしいモノにあふれてる」内でも紹介され、話題となりました。
どんな工芸品なのか興味がおありの方は、一度浄法寺塗「滴生舎」のECサイトを覗いてみると良いでしょう。

一つひとつ丁寧につくりあげる職人の技

二戸市浄法寺町御山にある漆器製作工房「滴生舎」では、制作の工程をガラス越しに見学できるようになっています。
浄法寺塗の伝統技術を受け継ぐ若い職人さん方が、1つ1つ丁寧に漆器をつくりあげる様子を眺めることができると、好評を博しているのです。
また、展示販売も兼ねた施設なので、お店の方のお話を伺いながら漆器を選ぶことができます。お椀やお盆、お箸など、シンプルだからこそ美しさが際立つ浄法寺塗の奥深さを、ぜひその目で御覧ください。
また、使うほどに艶が出る漆の性質を体感できる「うるし体験(漆ストラップつや出し体験)」も実施されています。磨き上げたプレートはストラップとしてお持ち帰りができるので、二戸市への旅の思い出になることでしょう。

浄法寺塗のぬくもりを、もっと身近に

実は、岩手県には他の地域にも浄法寺塗の魅力を体感できるスポットが。盛岡市の「浄法寺塗製造元うるみ工芸」なら、本格的な絵付けの体験学習が実施されています。
汁椀(黒・内朱)、箸(黒・朱)などに、本格的な本漆で絵柄を描くことができ、2週間ほど乾燥させて、後日発送してもらう形です。あなただけの一点ものが作れますので、きっと良い記念になるでしょう。
まるで「シンプル イズ ベスト」のなんたるかを語りかけてくれているかのような、素朴な佇まいの浄法寺塗。どこか懐かしさを感じるその漆器は、現代のわたしたちの生活のなかにもひっそりと、そして確かに息づいています。
浄法寺塗が持つ自然のぬくもり、そして侘び寂びを、あなたもぜひ体感してみてください。

紡ぎ手:Sayuri Shirasawa

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