【西陣織】古くから時代を紡ぎ続ける担い手【京都府 京都市】

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美を織りあげる雅のまち

京都府京都市。京都府の南に位置する政令指定都市です。
標高1,000mを超える山々に囲まれており、瀬戸内式気候と内陸性気候をあわせもつ特徴があります。
鴨川や桂川、宇治川が流れる自然豊かなこのまちは、古くから伝統と文化を形成する地として栄えてきました。
今も多様な産業が集まり、互いに刺激しながら成長し続けています。
そんな京都の伝統工芸品「西陣織」は誰もが知るところでしょう。主に京都市街の北西部でつくられており、繊細な技が映える絹織物です。
今やその名を知らない人のほうが少ないであろう西陣織。今回は、長い時間をかけて今の地位を確立した西陣織の歩みを辿ります。
古墳の時代に伝来した織物の技術は、どのようにして発展してきたのでしょうか。

海を渡り日本で紡がれていく糸

5〜6世紀ごろ、大陸から日本に渡ってきた豪族・秦氏一族が養蚕と絹織物の技術を伝えたのが西陣織の起源です。
平安時代に入ると、絹織物の製造は官営の職業となります。
「織部司(おりべのつかさ)」という役所が設置され、今の上京区に職人が住まう「織部町(おりべのまち)」が作られました。
職人たちはここで綾や錦といった高級な織物に取り組み、絹織物産業はさらに発展していきました。
しかし、平安時代の後半に入ると、徐々に官営の織物工房は衰退し始めます。職人達は、織部町の東・大舎人(おおとねり)町で自ら工房を構え、これまで宮廷に管理されていたものと異なる自由な織物づくりを始めました。
鎌倉時代には「大舎人(おおとねり)の綾」「大宮の絹」と呼ばれる質の高い織物を生み出し、大変重宝されていました。大陸の技術も積極的に取り入れ、さらに織物業を発展させていきます。
室町時代になると、職人たちは「大舎人座」と銘打った組織を作り、朝廷だけでなく、公家や武家からの注文も受けていました。

乱世を生きる西陣織と守人たち

1467年、応仁の乱が起こります。
11年に及んだこの戦いは、京都の人々を混乱と戦火に巻き込みました。
織物職人たちは別の地へ逃れ、大舎人町は壊滅状態となります。しかし、たくましい職人たちは西陣(現在の上京区大宮)にて織物業を再び立ち上げました。
西軍の大将である山名宗全がこの地に陣をはったことから名づけられた西陣。この地で生まれた織物は、やがて「西陣織」の名を冠し、日本を代表する伝統工芸品としてその地位を確立することになります。
その後も時の天下人・豊臣秀吉からの加護を受けどんどん発展していきました。
江戸時代になると、町人文化と共に西陣織はさらに発展します。しかし、飢饉や大火の影響で人々の暮らしが厳しいものになり、織物の需要は低下の一途をたどりました。
さらに、幕府による奢侈(しゃし)禁止令が拍車をかけます。この禁止令は、武士や町人が着る布の種類や色を指定するものでした。

革新と伝統が生み出す輝き

苦境を乗り越え明治時代。西洋へ留学した佐倉常七らがジャカート織機を導入しました。幾度も技術改良を繰り返し、西陣織は飛躍的に発展していきます。
その後、大正・昭和時代へ進む中、絹織物の大衆化を促進する一方で職人たちはさらに技術を磨きました。こうして織物業としての揺るぎない地位を築いたのです。
長きにわたり人々の暮らしを彩ってきた西陣織は、1976年2月26日に国の伝統的工芸品に指定されました。
現在は、帯や着物だけでなく、ネクタイやショールなど幅広く生産されています。
身につけるものだけでなく、がま口やバッグ、額装品など、さまざまな形で親しまれています。
職人たちのたゆまぬ努力と、新しい技術を受け入れ活かす創造力が今日の西陣織を作ったといってもよいでしょう。

時を織る西陣織の世界

西陣織の魅力は、何と言っても多様な織り方からなる繊細な図柄の美しさです。織機は3種類、国から指定されている織り方は12種類に及びます。
また、西陣織は先に染色された糸を用いて織り上げるため、後から染色するよりも耐久性があります。長く使える点も西陣織の大きな魅力のひとつです。
高級織物のイメージが強い西陣織ですが、さまざまな体験教室やサービスを受けられます。
西陣織工業組合では、ミニサイズの織機でテーブルセンターを作ったり、万華鏡作りを楽しんだりできます。
また、着物を着ての撮影や京都の街を散策もできるので、美しい西陣織を身にまとい優雅なひとときを思い出に残すのも良いでしょう。
西陣織あさぎ美術館は西陣織を使った額装品が展示されています。
日本の名画を、西陣織が忠実に再現。その美しさは絵画に勝るとも劣りません。
私たち日本人になじみのある仏教美術はもちろんのこと、印象派の巨匠、ルノアールやセザンヌの絵画も「光」のまぶしさやあたたかさを感じられる額装品として展示されています。
西陣織は、古墳時代からの長い歴史を生き抜いてきた伝統工芸品です。戦乱の世にあっても諦めなかった職人たちの気概と、妥協しない技術のアップデートが今日の姿を作ったといっても良いでしょう。
着物という枠を超えて、さまざまな形をとりながら私たちの生活に寄り添う西陣織。これからも美しい変化を見せてくれるに違いありません。

紡ぎ手:佐藤 恵美

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