【広島仏壇】金色の極楽浄土を祀る七匠の技【広島県 広島市】

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極楽浄土を表す、荘厳たる金仏壇

広島県の西部、安芸地方にある広島市。県庁所在地であり、中国・四国地方最多の人口を有します。その広島市とその周辺、福山市地域を主産地とする広島仏壇は、絢爛な輝きを放つ金仏壇でよく知られています。
金仏壇は金色に輝く浄土の世界を表しているとされ、その荘厳さには目を見張ります。広島仏壇の金仏壇には、伝統的な木工や彫刻、塗り、蒔絵、箔押しやかざり金具など、あらゆる高い技術が集約されています。
昔ながらの伝統を守り続け、1978年には経済産業大臣指定伝統的工芸品となった広島仏壇。なぜ、広島で仏壇づくりが行われるようになったのでしょうか。その歩みを知るために、まずは広島への仏教伝来の歴史から紐解いていきます。

仏壇製造の土壌となった「安芸門徒」の信心深さ

広島に浄土真宗の教えが伝えられたのは、鎌倉時代。親鸞門下の直弟子である明光上人の法弟慶円らが備後国沼隈郡山南(現在の広島県福山市)に光照寺を創立したことによると言われています。
浄土真宗はその後、安芸武田氏や毛利元就の保護により、広島に定着していきました。その信心深さは、やがて「安芸門徒」の名で知られるようになります。
一家に一つは仏壇を置くという土地柄により、門徒を対象とした仏壇製造が広島で盛んになっていきました。

広島仏壇が全国一の技術を確立するまで

現在の広島仏壇の技術や技法が確立するまでには、江戸時代の2つの出来事が影響しています。
まず、1619年に幕命により浅野長晟が領地を紀州から広島に移した際、随従した職人が漆塗りや絵物細工、金箔などの高度な技術を広島に持ち込みました。その後の1716年、広島市の明星院の暾高という僧が藩主の男子誕生を願って祈祷堂を建立するため、京都と大阪に出向いて仏壇や仏具の高度な製造技術を学び、地元の工匠に製作させました。これらの出来事により広島仏壇の高い技術が確立されていき、その後は城下町の一角で藩主の保護を受け、仏壇づくりが広島の主要産業の一つとなっていきます。
明治時代になると、海上交通の発達などにより京都や大阪などの関西方面へも大量出荷されるようになり、広島市の中心部に仏壇町が形成されるまでになりました。そして大正末期には、全国一の仏壇生産地となります。
ところが、原子爆弾投下により広島は壊滅的な打撃を受け、仏壇の需要や職人の数は大幅に減少。戦地から帰還した技術者が日本に残った技術者と協力し合うことで徐々に復興し、その伝統技術は無事受け継がれていきます。そして、1978年には広島仏壇が経済産業大臣指定伝統的工芸品として指定されました。

仏壇にも使われる広島名産「牡蠣」

製造にあたっては、各工程で七匠の技が光ります。使われる木材は、広島さんの杉や松、檜など。まず木地師により、仏壇の本体にあたる外回りや内回り、障子や扉が作られます。木材に細工し、ご本尊を安置する宮殿を組み上げるのは宮殿師(くうでんし)。そして目を引く彫刻部分は、仏殿の欄間や彫刻の飾りを狭間師が、須弥壇の飾りが須弥壇師がそれぞれ彫刻刀で掘り上げていきます。漆塗りや金箔の箔押しは塗師(ぬし)が仕上げ、蒔絵師が絵を描き仕上げます。最後に、蝶番や仏壇の取手などを、かざり金具師が作り上げ取り付けます。
21ひろしま県内製品愛用運動推進協議会によれば、広島仏壇の形式の特徴は、狭間(さま)の部分が弓形をしている「広島型」であることだと言います。
広島名産である牡蠣の殻を細かく砕き膠(にかわ)液を加えた「胡粉下地(ごふんしたじ)」を使用していることも、広島らしい技術だと言えるでしょう。

修繕にも生きる七匠の技


仏壇1基に、七匠の高度な伝統技術が集約されている広島仏壇。このうち、砥粉(とのこ)と膠(にわか)で練った材料を高く盛り上げる高蒔絵技法と、塗の技術における「立て塗」の技法、金箔押、欄間の技術が特に優れると言われています。
世代を越えて長く祀れるよう、仏壇は修繕が行いやすいように釘を用いないホゾ組みという技法で作られています。古びてしまっても、解体して漆を塗り直し、金箔を押し直すことで新品同様の姿を取り戻せることは、購入の際に知っておきたい知識です。修理には高い技術が必要となり、広島仏壇の職人の業務の3割は、修理に充てられていると言われています。

仏壇の真価を広島で知る

広島市中区にある「仏だん通り」は、老舗の仏具店が建ち並ぶとともに、広島随一の繁華街としても知られています。
お釈迦様のお誕生日である4月8日の「花祭り」の時期に、毎年「仏だん通り祭り」が開催されます。お釈迦様の像(誕生仏)に甘茶を注いで祝う「灌仏会」や、金箔押し体験や仏壇について学べる伝統工芸体験ツアーなども行われ、賑わいを見せています。
JR広島駅からバスで約10分とアクセスも便利なため、広島観光の際に立ち寄ってみるのもよいでしょう。
株式会社高山清では、広島仏壇の純金箔押しを体験できる「黄金鉛筆づくり」を行なっています。0.1ミクロン(1mmの10000分の1)の薄さの金箔が鉛筆にピタリと貼り付いていく様からは、きっと目が離せないはずです。
祀りの仏具であるとともに、伝統芸術品でもある広島仏壇。七匠の職人技が凝縮された広島仏壇は、これからも世代を越えて極楽浄土の世界を祀り、伝え続けるのでしょう。

紡ぎ手:田口 友紀子

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