【大阪欄間】古き日本家屋と現代建築に宿った匠の技【大阪府 大阪市】

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多様な文化が集うまちに息づくもの

大阪府には43の市町村があり、その中でも大阪市は人口約277万人を擁する日本の大都市です。古くから商業の中心地として栄え、現在も国内外から多くの人々が訪れています。
歴史的な寺院や神社、伝統的な町並みが残る一方で、近代的な高層ビルが立ち並び、活気あふれる都会の顔も併せもつ都市です。
「食い倒れの街」として有名な大阪市には庶民的なグルメ文化が根付いており、お好み焼きやたこ焼き、串カツなどが楽しめます。さらに、文化や芸術の面においても非常に多彩で、多くの劇場やコンサートホール、美術館などで情緒あふれる伝統芸能や現代アートに触れられます。
今回ご紹介する「大阪欄間」は、大阪の歴史と職人の技が凝縮された美しい伝統工芸品のひとつです。

活気あふれる商いの地で洗練されていく伝統

大阪欄間の起源は、17世紀にまでさかのぼります。当初は寺院や神社で使用される建具の一部として発展しました。大阪府和泉市の神社、大阪市の四天王寺にその技術の片鱗が見られます。
そもそも欄間は、京都を中心として貴族や寺など特権階級の権威を示すものとして用いられていました。その後、江戸時代の中期からは大阪の商家や一般の住宅にも広まり、製造の拠点は大阪に移ります。
この頃の大阪は「天下の台所」と謳われていました。諸藩の年貢米や作物など、あらゆる物資が大阪の蔵屋敷に集まり、商人によって江戸に売られていたためです。
食物だけでなく、製造業も例外ではありませんでした。堀江(現在の大阪市西区)や横堀(大阪市中央区周辺)には木材問屋が立ち並び、呼応するように欄間の職人も多く集うようになったのです。
当時の大阪は財を築いた裕福な商人が多く暮らしており、欄間の需要が高まる要因と考えられています。
依頼主の希望に沿うように技術を磨き、大阪欄間はその価値をどんどん上げていきました。
1975年に大阪府の伝統工芸品として指定され、その後も伝統技法は受け継がれています。

おごそかな日本家屋を演出する技

欄間とは部屋と部屋、部屋と廊下の境において、天井と鴨居の間に取り付けられる建具です。採光や通風を目的としています。
しかし、大阪欄間の特徴は実用性の高さだけではありません。あらゆる図柄が多くの技法によって生み出され、室内装飾としても評価されています。
風景や動物などの図柄を立体的に見せる「彫刻欄間」や、薄めの板に図柄を掘り抜いて光を取り入れる「透彫欄間」、幾何学模様を作る「組子欄間」など、技法によって見た目や使う木材も多岐に渡ります。美しく機能性も備えた大阪欄間は、家屋の格調を高め過ごしやすい空間を作る立役者なのです。
現代では、以前ほど欄間のある家屋は多くありません。しかし、若い世代にも受け入れられやすいデザインを取り入れ、時代に応じた制作がおこなわれています。

長い時を経て作られる大阪欄間

大阪欄間は複雑な工程を経て完成します。
まず、原材料として屋久杉や桐などの木材を選定しなければなりません。色や質、光沢の良さがカギです。
選ばれた木材を厚さ45ミリ以下、長さ2メートル・4メートルに切ります。その後、湿気のない場所で板を陰干し乾燥させます。板同士が重なると腐る可能性があるため、数センチずつ開けなければなりません。
ここでしっかり乾燥させなければ、彫刻の段階で割れる場合があります。乾燥の工程は実に3ヶ月以上、木によっては2~3年を要します。
水分が抜けたら、木取りの工程に入ります。欄間の形に合わせて木材を加工する作業です。必要な大きさに切ったら、表面に墨と筆で下絵を描いていきます。この段階では、木の特性や繊維の流れなどを考えながら細かく図柄を決めます。
次は挽き仕事です。この工程では、図柄にそって不要な部分を切り落とします。用いるのは細い歯ののこぎりです。
挽き仕事で大まかに切り落とした部分は、繰り仕事と呼ばれる工程で丁寧に修正されます。
使うのは小刀。荒れた部分を繊細な技術で美しく整えていきます。
ここからようやく、彫りの作業です。下絵にそって、ノミを使い模様を彫り出します。この作業は荒彫りと呼ばれ、木の繊維や強度などを考えながら進める必要があります。
続いて彫りの工程です。さらに細かく図柄を彫っていきます。ここでは遠近感や立体感を意識して、緻密な作業を重ねます。
彫りが終わったら面取りし、彫刻部分と外側を区切ります。さらに木目の美しさが際立つように磨き上げ、最後に額縁を組んで欄間をはめ込んだら完成です。

伝統を身近に感じる場所

大阪市内には、大阪欄間に関する展示や体験ができる施設がいくつかあります。
大阪欄間工芸協同組合では、小学4年生以上を対象とした児童教育事業がおこなわれています。職人が出張し、欄間の歴史や工程、実演をおこなう事業です。
また、同組合では一般向けの体験事業も実施しています。いくつかのデザインから好きなものを選び、職人の指導のもと楽しく制作を体験できますよ。時期によっては、ワークショップイベントでも大阪欄間を身近に感じる機会があります。
また、ちょっと意外な場所でも大阪欄間の技術を感じられます。
阿倍野区にあるスターバックス「あべのHoop店」です。同店では大阪欄間が意匠として使用されており、伝統工芸品と現代のカフェが融合した空間を楽しめます。格子状の「筬欄間」にて大阪欄間の美しさが見事に表現されています。
日本家屋の格式と伝統を示すものであった大阪欄間は、時代の流れに呼応しながらその形を少しずつ変えています。職人たちが培った技術は、今後も時と共に磨き上げられ、洗練されていくでしょう。

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