【山形鋳物】職人の技が光る 伝統とモダンを両立した素朴な鋳物【山形県 山形市】

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山形の歴史ある工芸品「山形鋳物」

山形県の東南部に位置する山形市は、面積の約65%が山岳・丘陵地帯。雄大な自然と歴史・文化に恵まれた、およそ24万人もの人々が暮らすまちです。
俳聖・松尾芭蕉が残した「閑さや岩にしみ入る蝉の声」という名句は、山形市の「宝珠山立石寺(通称:山寺)」で詠まれたとされています。
そして、ほかでは見ることのできない大迫力の「蔵王の樹氷」や、スキー場・スノーリゾートでおなじみの「蔵王温泉」も、ここ山形市にあり、全国から多くの旅行客が訪れる観光スポットとしてお馴染みです。
そんな山形市に古くから伝わる工芸品が、「山形鋳物(やまがたいもの)」。1975年に東北の「伝統的工芸品」に指定された、歴史ある工芸品です。

シンプルで洗練されたフォルムの美しさ

砂を押し固めてできた型に、金属を高温にして流し込む鋳造技術を用いてつくられる「山形鋳物」。素材は、鉄でできた鉄器と、銅合金の銅器が主となっています。
これまでの歴史のなかで、仏像や仏具はもちろん、茶釜や鉄瓶、急須、鉄鍋や鍋敷き、箸置きなど、我々の生活に密着した台所用品もつくられ、生活の一部となっていきました。
身近な鉄瓶を例にとっても、砂のザラザラとした質感を持つ美しい鋳肌が魅力。
日本にはほかにも工芸品として生産される鋳物が全国各地にありますが、山形鋳物は比較的薄手で、シンプルで素朴なデザインと、機能性が特徴となっています。
この鋳物に携わってきた先人たちは、商売よりものづくりを極めることを重視し、分業制をとらず、工房ごとに工程のはじまりから最後まで全て担ってきた歴史があるそう。
そういった職人気質のこだわりが、山形鋳物の完成度の高さや芸術性を高めることにつながったといわれています。

長い歴史に見る、山形鋳物の足跡とは

山形鋳物の発祥を辿ると、時は平安時代後期にまで遡ります。
歴史の教科書でも知られる前九年の役の折、源頼義と一緒に山形を訪れた鋳物職人が、「馬見ヶ崎川」の砂や「千歳公園」周辺の土の質が鋳型に適していることを発見。数人が山形に留まって鋳物を作り始めたことが始まりとされています。
江戸時代初期になると、藩主の最上義光が城下町の再編成をします。鍛冶町から鋳物師を隣町に移して「銅町」と命名し、職人町がつくられました。
そして、仏具や日用品を生産する高い技術を持つ職人たちが保護され、山形鋳物は発展を遂げます。やがて、ここが日本の工業団地の先駆けとなってゆくのです。
他の伝統工芸品がそうであるように、山形鋳物にも継承の危機がありました。戦時下になると、政府からの圧力で材料が高騰し、鋳物の生産が激減してしまったのです
そんな困難も、戦後にどうにか立て直しを図り、今の山形鋳物として名のある伝統工芸品になりました。

トラディショナルとモダンの両立も追求

長い歴史のある山形鋳物ですが、伝統的なデザインばかりではなく、現代の生活になじむ和モダンなデザインのものも次々と登場。
研鑽を積んだ職人さんが手作業で仕上げた工芸品として、多くの方に愛されています。
たとえば、「菊地保寿堂」の急須「和鉄ポット まゆ」は、社会をよりよくするデザインに贈られる「グッドデザイン賞」を2006年に受賞。2018年には、同工房の鉄鍋「究極の鍋」がテレビ東京の人気番組「世界!ニッポン行きたい人応援団」に登場するなどして話題になりました。
また、「鋳心ノ工房」でつくられたティーポット「ティポット・平つぼ・SS・S・L」も、2015年度に「グッドデザイン賞」を受賞。この工房は、なんと2012年・13年・14年にも、同賞を受賞した実績を持っているのです。
まさに温故知新の精神性を体現した伝統工芸品であり、社会的にもその価値が広く知られるようになってきました。現在では、日本のみならず、海外でも注目を浴びているのだとか。

地域に根ざした山形鋳物を、肌で感じる

山形市の「鳥海月山両所宮」にて毎年10月に行われる「たたら・ふいご祭り」は、山形鋳物の次世代への継承と、生産技術を発展させた“たたら”への感謝の気持ちが込められたお祭りです。
地域の人で賑わう様子は、長い間山形鋳物がここに根付いてきた温かな歴史を感じさせてくれます。
歴史をさらに深くお知りになりたい方は、「山形市産業歴史資料館」にも足を運んでみてください。鋳物町にある小規模な資料館ですが、山形鋳物の歴史や制作工程が昔の道具や映像とともに展示されており、じっくりと見学することができます。
また、銅町にある山形鋳物の専門店「月山堂」では、アルミ鋳物の手作り体験教室が行われています(※要予約)。全2回の体験のなかで、花器やペン立て、文鎮など、オリジナルの鋳物を作ることができますので、きっと良い経験になることでしょう。

職人たちが紡いだ伝統の技を、今この手に

実際に山形鋳物を直接購入されたい場合は、山形県観光物産会館「ぐっと山形」にも注目です。山形鋳物はもちろん、地域の民芸品や特産品のラインナップの多さで人気を博している施設なので、お土産を購入して旅の思い出づくりをしてみてはいかがでしょうか。
また、隣接した道の駅「道の駅山形蔵王」の館内にも、山形県内の伝統工芸品が展示されているので、興味のある方は足を運んでみると良いでしょう。
先人たちの知恵や誇りが詰まった伝統的工芸品、山形鋳物。素朴な温かさを感じる生活用品として今も多くの人に愛され、現代の生活に溶け込んでいます。そんな山形鋳物の奥深さを、あなたもぜひ感じてみてください。

紡ぎ手:Sayuri Shirasawa

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