秋田県仙北市の味わい深い工芸品「樺細工」
秋田県の仙北市は、旧田沢湖町、旧角館町、旧西木村が合併し、2005年に誕生したまち。
県東部に位置し、中央に田沢湖、北には八幡平、南には仙北平野、東は岩手県と隣接しています。
面積の約8割が森林地帯で、美しい桜の名所があることでもおなじみの仙北市。
日本一の水深を誇る美しい湖「田沢湖」や、十種類以上もの源泉がある「乳頭温泉郷」、天然の岩盤浴が楽しめる「玉川温泉」など、全国的に名の知れた観光地が数多くあります。
この仙北市には、昔から「樺細工」づくりが地場産業として根付いてきました。
「樺」という字からは白樺が連想されるので、素材に大山桜や霞桜の樹皮を使っていると聞くと不思議に思うかもしれません。
一体、なぜ「樺細工」と呼ぶのでしょうか?
山桜の樹皮でできた、樺細工とは
名前の由来には諸説あります。古代から山桜を「カニハ」と表現していたものが後世で「カバ」に転化したという話や、角館地域で昔「サクラカバ」と呼ばれていた素材が「カバ」と呼ばれるようになったという話が通説として語られています。
つまり「樺」という漢字自体に「山桜」の意味が含まれているのではないかと考えられているのです。
素材を分かりやすくするため、現在は「樺細工」をあえて「桜皮細工」と表現することもあるのだとか。
主に3つの工法が代表的で、茶筒などの「型もの」、テーブルなどの大きさのある「木地もの」、ブローチやループタイなどの「たたみもの」など、どれも手作りの趣を感じられる美しい工芸品となっています。
武士の内職からはじまった、樺細工の歴史
樺細工の歴史を紐解くと、はじまりは1772年〜1789年頃にまで遡ります。当時角館を治めていた佐竹北家によって技法が伝えられ、この地域で暮らしていた武士たちの内職として印籠や胴乱などの小物が制作されてきた歴史があるのです。
樹皮を使用していることから防湿性に優れており、実用的であったことからも、のちに茶筒や茶箪笥、文箱、ブローチなど、東北の生活に密着した工芸品へと発展してゆきます。
時は流れ、1981年には経済産業大臣指定の伝統的工芸品に認定。東北地域のみならず全国的に広く愛用されるようになり、今では秋田県のお土産品としてもおなじみです。
そんな樺細工ですが、多くの伝統的工芸品がそうであるように、後継者不足などの課題を抱えてきました。
それでも匠の技術を継承していこうと、造詣の深い職人20名を「伝統工芸士」として認定。後の世まで伝統の技を伝えるべく、今も日々研鑽を積んでいるのです。
今もなお活躍する樺細工、ついに世界へ
秋田の樺細工は、国内でも活躍しています。
たとえば2011年には、株式会社藤木伝四郎商店の樺細工の茶筒が、公益財団法人日本デザイン振興会の「グッドデザイン賞」を受賞しました。
また、仙北市がたびたびメディアで取り上げられることも。
NHKで角館の伝統文化として樺細工が何度か紹介されたことがあり、TBS系列でも2017年に「ふるさとの夢」という番組で特集されました。
さらには、日本国内のみならず海外への進出も。
樺細工づくりや販売を担う「冨岡商店」では、2012年からドイツのフランクフルトで行われる「国際見本市」に参加しています。
2023年には、ブラジルのサンパウロで販売。海外でも、徐々に注目を浴び始めているのです。
世界にひとつだけの工芸品作りを体験
職人たちがひとつひとつ手作業でつくる樺細工。その奥深さを体感したい方は、一度体験学習に参加してみてはいかがでしょう。
秋田県仙北市の「仙北市立角館樺細工伝承館」では、樺細工の制作体験が可能です。壁掛けやコースターなど、世界でひとつだけのオリジナル作品を作ることができますので、きっと思い出に残ることでしょう。
詳細をお知りになりたい方は、仙北市交流デザイン課まで問い合わせてみてください。
こちらの工芸館では、開館時間内に職人の制作実演も行われています。樺細工がどのようにしてつくられているのか、その技術や作業の様子を間近で見学可能です。
また、毎年期間限定で「角館町樺細工伝統工芸展」という展示も行われており、職人たちの研鑽の結晶とも呼べる新作がずらりと並びます。
期間中には即売会も開催されますので、興味のある方は足を運んでみると良いでしょう。
秋田へ旅行に行くなら、お土産に樺細工を
現地で樺細工をご覧になりたい方や購入を検討されている方は、仙北市の「角館桜皮細工センター」へ。
樺細工(桜皮細工)をはじめ、秋田県のお土産を幅広く取り扱っていますので、旅行の際にぜひ立ち寄ってみてください。
なお、同センターはオンラインストアも開設していますので、遠方の方はこちらから購入することもできます。
奥深い色合いと堅牢さのある工芸品、樺細工。
ひとつとして同じものが無い一点物でありながら生活シーンにもよく馴染み、長く使っているうちに生まれる光沢もまた魅力です。
あなたもぜひ一度、その手に取ってみてください。
紡ぎ手:Sayuri Shirasawa