【津軽塗】直向きな職人たちの汗と涙の結晶 堅牢であでやかな漆器【青森県 弘前市】

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利便性と自然の美しさが調和したまち

青森県の南西部、白神山地に囲まれた盆地にあり、南側は秋田県の大館市にも隣接している弘前市。
日本海側特有の気候を持ち、夏は梅雨の影響が少なく比較的乾燥しているものの、冬には全国有数の豪雪地帯となります。
利便性の良い市街地と郊外の自然が美しく調和したまちで、りんごの栽培が盛んなことでもおなじみです。
ほかにも、弘前城の跡地として国指定の重要文化財もある「弘前公園」や、赤いドーム屋根の有名な洋館「旧弘前市立図書館」、1,200年以上の歴史を誇るパワースポット「岩木山神社」などが有名な観光地となっています。
夏には「ねぷた祭り」が催され、最大9メートルにも及ぶ大型のねぷたが街の中を練り歩く様子は圧巻。全国から観光客の方が多く足を運ぶまちです。
そんな弘前市で、「津軽塗」と呼ばれる美しい色彩の伝統工芸がつくられていることをご存知でしょうか?

独特の模様があでやかな弘前市の漆器

青森県弘前市を中心につくられている「津軽塗」は、「研ぎ出し変わり塗り」という漆工技術を用いてつくられる美しい漆器です。
耐久性と実用性に優れており、独特の模様は非常にあでやか。お椀や箸、お盆など、身近な生活用品として東北の生活に長く根付いてきました。近年では、時代に合った新たな試みとしてアクセサリーにも応用されています。
1975年に国の伝統的工芸品としても認定され、2017年には青森県初の重要無形文化財として技術指定もされました。歴史ある工芸品なのです。
伝統的な技法は「唐塗」「七々子塗」「紋紗塗」「錦塗」の4つ。
非常に長い工程を経て、手間を惜しまずつくられています。
日本の漆器のなかでも、塗り重ねた漆をあえて削って再び塗る工程を何度も繰り返すのは非常に珍しく、津軽塗独特の技法なのだとか。
2023年には、この津軽塗をテーマにした「バカ塗りの娘」という映画が全国的に上映されたことでも話題になりました。

江戸時代から続く津軽塗の歴史

今もなお、多くの人を魅了している津軽塗。その起源は、江戸時代にまで遡ります。
津軽藩の四代藩主信政の時代に、全国から多くの職人を招き入れ、藩の調度品としてつくられていったのが始まりとされています。
ちょうど、1642年に成立した参勤交代制により江戸までの物流が発達していた頃で、各藩がおのおのの地域の産業を保護・奨励するような動きがあったのです。
津軽藩も例外ではなく、地域の工芸品をつくる職人たちを保護・育成してゆきました。
その後、産業として確立して以降は一気に大衆化してゆき、人々に親しまれる生活用品として浸透していった経緯があります。
1873年には、県がウィーン万国博覧会へも出展。このとき、「津軽塗」の名前でこの漆器で出展して受賞したことから、全国的に名前が知られるようになったとされています。

今もなお、切磋琢磨する職人たち

1つの作品が完成するまでには、3〜6ヶ月を要することも。その匠の技が、現代にまで継承されています。
塗りは、基本の模様をつける仕掛けという工程から。
まずは紋漆で斑点模様を付け、充分に乾燥させます。その上からさまざまな色の漆を重ね、彩色で模様を描いて乾燥させたら、顔料の入らない素黒目漆を塗って再び乾燥へ。
次は、漆を削る工程です。
目の粗さが異なる研磨紙で模様を削り出し、凹んだ部分に漆を入れ込むように塗ります。
乾燥後は、砥石で研磨。再び塗って研磨し、さらに仕上げの磨きで表面を平らにしていくのです。
その後も、摺り漆で塗り固めたら、研炭で水研ぎをして、研いだあとの傷を埋めるべくまた生漆を擦り込み、和紙で拭き上げを行います。
最終的には、艶粉を用いて表面を磨き、再び生漆で擦り込み拭き。これを繰り返して、ようやく完成に至ります。
膨大な時間と手間をかけて、実直に、そして丁寧に、つくられているのです。

幻想的な津軽塗にあなたもきっと魅了される

そんな津軽塗の美しさを体感するなら、ギャラリー「CASAICO」がおすすめ。歴史について学んだり、作品を購入したりできる場所です。
「1day津軽塗workshop」と称して、津軽塗の仕掛け体験や研ぎ出し体験も実施していますので、問い合わせてみると良いでしょう。
ほかに、青森の魅力を体験できる施設「津軽藩ねぷた村」でも、津軽塗の研ぎ出し制作体験が実施されています。
箸・手鏡・スプーンから好きな作品を選べるので、素敵なお土産になりそうです。
長い歴史に思いを馳せ、普段は触れることのできない技術を体感してみてはいかがでしょうか。
華やかで、美しい津軽塗。
その幻想的な模様の裏には、「馬鹿塗」と揶揄されても手間を惜しまず、ひたすらまっすぐに信念を貫き通してきた職人たちの歴史があります。
その実直さを継ぐ次世代の職人たちの手により、これからも新たな津軽塗の歴史が塗り重ねられてゆくことでしょう。

紡ぎ手:Sayuri Shirasawa

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