【二風谷イタ】アイヌの魂と技巧が綾なす、緻密な文様のお盆【北海道 平取町】

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北海道平取町の「二風谷イタ」

映画「ゴールデンカムイ」の聖地の1つとして知られる、北海道平取町。豊かな自然に囲まれた丘陵地帯で、四季折々の表情を見せてくれる沙流川が南北に流れています。
四千人ほどの人々が暮らすこの町では、特産品として「びらとりトマト」や「びらとり和牛」が有名になっています。
また、二風谷地域はアイヌ文化の拠点のひとつとしても知られる場所です。アイヌ語の「ニプタイ」という言葉が由来となった地名で、“木の生い茂るところ”といった意味合いがあるのだそう。
現在でも文化が残っており、「二風谷コタン」をはじめとした観光・文化施設を通して、その魅力にふれることが可能です。
この地域には古来から伝わるアイヌの工芸品があり、そのうちのひとつが「二風谷イタ(にぶたにいた)」です。

アイヌ文化が色濃く反映された二風谷イタ

平取町の沙流川流域では、古来からアイヌ工芸品が作られてきました。
なかでもカツラやクルミの木を用いて作られた「二風谷イタ」は、彫刻刀で緻密で美しいアイヌ文様が掘られているのが魅力です。
棘の文様をあらわす「アイウㇱ」、渦巻きの文様をあらわす「モレウ」、そして目をあらわす文様「シㇰ」など、1つ1つに意味があります。
さらに、その隙間を埋めるように「ラㇺラㇺノカ」と呼ばれる鱗状の文様があしらわれているのが特徴的です。
古来のアイヌの人びとは“カムイ”というアニミズム的思想を持っており、狩猟・採取の際にも自然への畏敬の念を持ちながら暮らしていたことが分かっています。
山や川、動植物と共に生き、常に自然への感謝を忘れない素朴な価値観を持ちながらも、美的感覚も非常に豊かな民族だったのだとか。アイヌの工芸品には、その価値観が色濃く反映されているのです。

二風谷イタが伝統的工芸品になるまでの足跡

二風谷イタは、アイヌ民族の方々の間で食材を盛りつけたり運んだりするための生活用品として使われてきた長い歴史があります。
これらのアイヌ工芸品は、古い記録を辿ると、西暦1700年代には贈答品や交易品として扱われ、1800年代には松前藩が幕府へ献上したとされています。
1873年にはウィーン万国博覧会に出品されたこともあり、北海道の経済活動と長く結びついてきたことがわかるのです。その確かな伝統的技法は、後の世にまで継承されることとなりました。
近年は後継者不足が問題となりつつも、技術を継承した二風谷地域の職人たちの手によって生み出された作品が全国に届けられています。
2013年には、ついに経済産業大臣指定の伝統的工芸品として、「二風谷イタ」が正式に認定されるまでになりました。

アイヌ工芸品が国内外で知られるように

現在、二風谷のアイヌ工芸品は、なんと世界にも進出しています。
2018年、イギリスの大英博物館からの依頼で「ジャパニーズ・ギャラリー」にアイヌ工芸品の常設展示が決まり、全国ニュースになっているのです。
また、2024年にはパリで二風谷のアイヌ工芸品の展覧会が開催されました。一歩ずつ、日本以外への広がりが見られています。
国内では、NHKが度々アイヌ文化の特集番組を制作するなど、アイヌの文化が広く知られるようになってきました。
昨今では、平取町へのふるさと納税の返礼品としても、アイヌ工芸品が提供されています。二風谷イタももちろん扱われていますので、気になる方は北海道平取町役場の詳細ページをご覧になってください。

産地平取町で触れるアイヌ文化

平取町には、古くからあるアイヌ文化に触れることのできる場所がたくさんあります。
注目を浴びることが多いのが「二風谷コタン」。
アイヌ文化関連の施設が集まっているスポットで、かつてアイヌの人びとが暮らしたとされる、葦の家屋(チセ)も復元されています。当時の様子を体感しながら、職人の方々との交流も楽しめる場所です。
また、コタン内にある「平取町立二風谷アイヌ文化博物館」は、当時のアイヌの人びとの暮らしぶりや文化・歴史を学べる施設となっています。
使用していた衣類や刀、生活用品など実際に展示を見ることができるので、長い歴史の足跡を辿ってみてください。
ここでは、木彫りや刺繍の体験も可能。二風谷イタに代表されるようなアイヌ文様を実際に彫ってコースターを制作できるので、素敵な思い出に残ることでしょう。

手にとってほしい、二風谷イタ

二風谷イタを購入するなら、「平取町アイヌ文化情報学センター」の一角にある「二風谷工芸館」に足を運んでみましょう。
職人たちが丹精込めて制作した本物の二風谷イタを取り扱っていますので、旅のお土産を購入するにはぴったりです。
ほかにも、なかなか入手することができない工芸品や書籍が、ここでは見つかります。お近くを訪れた際には立ち寄ってみると良いでしょう。
自然との調和を大切にし、美的感覚にも優れていたとされるアイヌの人びと。
その価値観を込めた工芸品は、素朴でありながら緻密かつ精巧で、豊かさのなんたるかを我々に語りかけているよう。
あなたも、ぜひ一度「二風谷イタ」を手に取ってみてください。手彫りならではの魅力を、体感できるはずです。

紡ぎ手:Sayuri Shirasawa

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