【東京三味線】聴くものをひきこむ伝統の音色【東京都 台東区】

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時を超えた和楽器「東京三味線」

400年以上の歴史をもつ、伝統的な和楽器の東京三味線が、令和4年に国の伝統工芸品に認定されました。
一つひとつの東京三味線は、職人が奏者と向きあうことで生みだされる芸術作品です。
三味線は用途と大きさによって大きく3つに分類されます。
・原型とされる長唄用を代表する「細棹」
・民謡や箏との合奏に用いる地唄用を代表とする「中棹」
・津軽三味線や義太夫に用いる「太棹」
音色の要となるのは、棹です。
関西地方では棹作りは分業されていますが、東京三味線では一人の職人がすべての工程を手がけます。
そのため、奏者との深い対話と理解が、独特の音色と美しさを生みだすのです。
一人の職人が材料選びから仕上げまでを一貫して行うことで、細部にわたるこだわりと奏者の要望を反映した三味線が完成します。

古からつづく音楽の心

日本の三味線の起源は、中国元の時代(1271年〜1635年)に誕生した三絃に遡ります。
14世紀末に琉球国へ伝わり、当初は蛇皮を用いたことから「蛇皮線」と呼ばれていました。
その後、室町時代末期の1558年〜1570年ごろに、境野港に初めて上陸したといわれています。当時、琵琶法師たちは蛇皮線を用いて小唄や踊歌にあわせて演奏していましたが、蛇皮が破れやすいことから、より頑丈な素材を求めてさまざまな動物の皮を試しました。その結果、猫皮を用いることが考案され、日本独特の三味線が誕生したのです。
1624年〜1645年の寛永年間には、江戸において神田治光や石村近江といった名匠が登場し、現在の三味線音楽の基礎が確立されました。
邦楽の発展とともに、三味線作りもまた進化を遂げていったのです。
こうして生まれた三味線は、日本の伝統的な楽器として、今日までその音色を響かせつづけています。

奏者の力量まで見極める匠の技

東京三味線は、一人の職人がすべての工程を担うことが特徴です。
三味線は、最上部である「天神」、ネック部分の「棹」、そして「胴」に分けて作られます。
関西地方では棹作りが分業されるのに対し、東京では一人の職人がすべての工程を担うのです。
棹の素材にはインド産の紅木が最高級とされており、その硬い木質が優れた音を生みだします。しかし、硬い木質から求める音を出すには、奏者の力量が必要になるのです。
職人は奏者の力量を見極めた上で素材を選び、求める音色をいかに弾きやすくできるかを考えながら制作を進めていきます。
また、胴に張る皮の種類や張り具合によっても音質に違いが出るため、素材選びの時点から奏者の力量を考慮しています。
自然素材を用いるため、均一な楽器に仕上げるには高度な技術が必要です。
紅木は乾燥に、胴に張る皮は湿気に弱いため、職人はその性質を理解し、季節ごとの温湿度にあわせて空調を整えます。
さらに加工時には素材の状態を手で感じ取りながら制作を行います。
奏者の好みにあわせた音を作り出す技は、まさに匠の技といえるでしょう。

愛されつづける匠のメンテナンス

東京三味線は、熟練した技をもつ職人の手によって丁寧に作られ、メンテナンスを重ねることで長く使いつづけられています。
奏者は自分の手に馴染む一品を見つけるために、ときには職人と何度も相談を重ね、細かな調整を依頼します。
その結果、唯一無二の三味線が誕生し、その信頼は三味線の音色や演奏の質に大きく影響するのです。
近年は古い三味線を修理・再生し、初心者に安く提供する活動も盛んに行われています。
向山楽器店でも、和楽器を始める方が増えるようにと、新品から中古まで幅広く用意されています。
職人の技術と情熱が注がれた三味線が、次世代の奏者へと受け継がれ、東京三味線の伝統はさらに色濃くなっていきます。
東京三味線は、その美しい音色とともに日本の音楽文化の一翼を担い続けているのです。

さわりの魅力と三絃との違い

東京三味線の音色は、西洋の楽器とは一線を画す独特の響きをもっています。
その最大の特徴は「さわり」と呼ばれる音の余韻で、このさわりの効果は、日本人の民族性と深く関係しています。
日本人は、原色よりも中間色を好む傾向があり、複雑な倍音(オーバートーン)を含む音を好むといわれているからです。
さわりの技術は、江戸中期に始まったものであり、それ以前の中国や琉球、江戸の初期の三絃にはみられない特徴です。
熟練した奏者は、微妙な手加減によって音が発生した後の余韻さえもたくみに操ります。
このように余韻まで操作可能な三味線の音色に、多くの人々が魅了されてきました。
東京三味線の音色は、その深みと複雑さで聴くものをひきこんできたのでしょう。

伝統の音色に癒されて

東京三味線は台東区を中心に、中央区や豊島区でも制作されています。
台東区では、確かな技術と伝統を守りながらも、胴に張る皮にカンガルー皮を使用するなど、新たな試みも行われています。
伝統の現代的価値の探求や発展を常に意識しているのです。
向山楽器店では、和楽器に親しんでいただくための見学や体験学習を行っています。
皮張り工程の見学や、三味線や琴の端材を使った飾り台、または箸を作る体験ができます。
ほかにも、オリジナル三味線作り体験も行っています。
伝統の技に触れ、その奥深さを感じられる貴重な機会です。
ぜひ一度、東京三味線の世界を体験してみてください。その魅力と伝統の技に、心を奪われることでしょう。

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