【井波彫刻】職人の技 工房からきこえるノミの音【富山県 南砺市】

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石畳を歩けば きこえてくる木彫り彫刻の音色

みなさんは「日本の音風景百選」をご存知でしょうか。

日常生活の中で、耳をすませば聞こえてくる音。
地元では日常に溶け込んでいる音を再発見することで、将来にわたってまもっていこうという取り組みの中で選ばれた全国各地の音風景です。

富山県南砺市井波。
室町時代の1390年に建てられた真宗大谷派瑞泉寺の前から八日町通りという石畳がのびています。古い家並みが軒を連ね、門前町の風情を色濃く残した趣のある通りです。
その八日町通りを歩くと木彫りのノミの音が “トントン” “カッカッ” と聞こえてきます。「日本の音風景百選」に選ばれている南砺市井波の「ノミの音」。
日本を代表する木彫り彫刻の「井波彫刻」の歴史を今に伝える音です。
百選には自然の音が多い中、職人が奏でる音が選ばれており、地域に根づいた伝統文化を感じます。

250年以上の歴史をもつ 井波彫刻

真宗大谷派瑞泉寺は一向一揆の一大拠点であったことから、戦火も含めたびたび火災に見舞われてきました。
しかし北陸屈指の寺院で大変多くの信者を抱えていたことから、焼失のたびに再建されてきました。
江戸時代中期の1762年に焼失した際に、再建にあたって京都本願寺の御用彫刻師・前川三四郎が派遣されました。この時に地元大工の番匠屋9代目・田村七左衛門など4人がその技法を習ったことが、井波彫刻のはじまりです。

ちなみに現在建っている瑞泉寺太子堂は1918年に当時の彫刻師が総力をあげて再建されたもので、井波彫刻の真髄を感じることができます。とりわけ龍の繊細で優美な彫刻は必見です。

社寺彫刻から住宅用装飾へ

井波彫刻は数々の名工、名人を輩出してきました。
神社や寺院の彫刻から、住宅用の欄間、衝立(ついたて)、仏像、お祭りの獅子頭、置き物などなど、様々な彫刻を生み出してきました。
特に、天井と鴨居との間に設けられる “欄間” は井波彫刻の代名詞として明治時代以降、多くの和風住宅に広まっていきました。
神社や寺院の彫刻から住宅用の装飾へ範囲が広がり、現在も八日町通りを中心に約200人もの彫刻家が軒を連ね、全国一の産地として技術を継承発展させています。

200本を超える 職人こだわりの仕事道具

繊細に丹念に彫り上げられる井波彫刻を語るうえで欠かせないのは “ノミ”や “彫刻刀”などの職人道具です。
職人は30種類以上100〜120本のノミを使い分けるそうです。
図柄に合わせて不要な木の部分を削り崩していく “荒おとし” と呼ばれる作業から仕上げまでは10工程ほどあり、それぞれに合ったノミや彫刻刀を使い分けます。
とりわけ3ヶ月もかかると言われる欄間をつくるには、200本以上のノミや彫刻刀が使われるそうです。
そのノミや彫刻刀の1本1本は、職人自ら自分に合うように加工しています。
職人それぞれこだわりの仕事道具が奏でる音が、八日町通りの音風景をつくり出しているのです。

井波彫刻発展の背景にある持ち家志向

井波彫刻が発展してきた背景には、この地域で欄間や置き物を求める住宅スタイルが求められてきたことがあります。
富山県は持ち家率が76.5%で全国2位(2018年総務省「住宅・土地統計調査」全国平均は61.2%)。全国に比べて若いころから持ち家志向が高いことも特徴です。
さらには、1戸あたりの敷地面積も348㎡で全国平均の251㎡をはるかに上回る大きなものとなっています。
平野部の水田管理がしやすいように耕地の近くに家を建てる人が多く、引越しをする人も少ないことが井波彫刻の発展の要因となってきたのです。
長年住み続ける家を彩り、技芸の継承とともに日常が飾られてきた尊さを感じます。

ノミの音をききながら 伝統技術を体感する

井波彫刻をもっと知りたいと思ったら、まずは井波彫刻協同組合 のページを訪問してみてください。大変多くの彫刻師、彫刻作品が掲載されていて、“井波彫刻ギター” という夢のような品物もあります。250年以上にわたり技術が継承されていく中での井波彫刻の広がり、ふくよかさが感じられます。
そして井波彫刻を体感したいと思ったら、ぜひ南砺市井波へ訪れてみてください。
八日町通りの石畳を歩きながら、職人が織りなす音風景をみなさんの身体で感じてください。井波彫刻総合会館 では、圧巻の巨大欄間から衝立、獅子頭まで大変多くの作品を体感することができます。会館には最近、“プラモデル風の木彫り看板” が設置されたのでそちらも探してみてください。
井波彫刻協同組合 のページには、衝立や置き物など通販で購入できるものもあります。井波の伝統文化をご自宅に取り入れてみてはいかがでしょう。長年にわたり継承されてきた伝統技術は、日常を豊かに彩り続けてくれます。

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