【熊野筆】筆づくり日本一 10人に1人が筆をつくる伝統のまち 【広島県 熊野町】

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広島県安芸郡熊野町の筆づくり

四方を500mほどの山々に囲まれた熊野盆地。
日本一の筆の生産量を誇る熊野町は、人口約2万3,000人。
そのうちおよそ2,500人が筆づくりに従事していて、まちに住む10人に1人が筆司というまさに「筆のまち」と呼ぶにふさわしい場所です。
「熊野筆」は、1975年に毛筆産業として初の“伝統工芸品”の指定を受け、15人が伝統工芸士に認定されました。
まさに筆一色の熊野町ですが、なぜ、この場所で筆づくりがここまで盛んになったのでしょうか。

出稼ぎから始まった筆づくりの伝統

全国各地の伝統文化は、その地域の山・川・海といった自然の恵みから生まれたものがほとんどです。その土地の水・土を生かしてつくられる陶器や草木を生かしてつくられる染物など、各地で特産品・名産品と言われるものは自然との深いつながりの中から生まれてきました。
しかし熊野町では、筆の穂に使う毛を取る動物もいなければ、軸の材料も採れません。
それなのに江戸時代末期から筆づくりが盛んになり、筆の生産量日本一となっています。
なぜ、手近に原料がないのに筆づくりがここまで発展したのでしょうか?
そのルーツには「出稼ぎ」が関係しています。

筆に興味をもった3人の若者から

江戸時代末期、当時の熊野村は平地が少ないため農業だけでは生活ができませんでした。
そのため農閑期に男たちは、和歌山県の熊野地方や奈良県の吉野地方に出稼ぎに出ていました。冬の間中働いて、その帰りには奈良に立ち寄って「筆」や「墨」を仕入れ、行商をしながら帰っていきました。
こうした中で、筆に興味をもつ3人の若者があらわれました。
彼らは広島や摂津で筆づくりを学び、熊野の村人に生産法を伝え、今につながる基礎がつくられました。
これを当時の広島藩が後押ししたことで、全国に熊野の筆が広まっていきました。

世界注目のブランド “熊野筆”

現在、全国生産の8割が熊野でつくられた筆です。
特に書道用と化粧用は生産量が日本一でアメリカ、ヨーロッパ、アジアといった世界各国にも輸出されています。熊野のメイクブラシはハリウッド俳優や有名ファッションモデルをメイクする多くの著名なメイクアップアーティストが愛用しています。
熊野の筆づくりは分業です。
穂首つくり、軸づくり、繰り込み、仕上げ、銘彫刻などの工程が1本1本、丁寧に手作業で行われています。
書筆、画筆、化粧筆どれをとっても最高品質の熊野筆は、オンラインでも購入可能なのでぜひあなたにとって最良の1本を見つけてください。

町全体が筆一色となる “筆祭り”

「筆の都」熊野町では、毎年9月23日に筆まつりが行われます。
この祭りは日本三筆の一人、嵯峨天皇を偲び、熊野町に筆づくりをもたらした3人の若者に感謝の意を表するために始まりました。
前夜祭から盛り上がりを見せる祭りは見どころがいっぱいです。
メイン会場となる榊山(さかきやま)神社に向かう参道には筆が吊るされ「一万本の筆通り」となっていて、30を超えるメーカーが特別価格で販売する「筆の市」が軒を連ねています。
競書大会、筆踊り、筆供養と数あるイベントの中でも、書家による「大作席書」は人気の催しです。
約20畳分の特殊な布に立った書家が、大きな筆で一気に作品を書き上げる様は圧巻です。

“筆の里工房” で伝統を体感して

筆祭りのほかにも、熊野町では日本一の筆のまちとして「全国書画展覧会」や「ふれあい書道展」も開催されています。
「全国書画展覧会」は書写教室の振興と保護を目的に、“全国の” 小中学校から児童生徒の作品を広く募集するもので1931年から続いていて、約40万点もの作品が集まります。
「ふれあい書道展」は “全国の” お年寄りや初心者に、書に親しんでもらうための展覧会で誰でも参加ができます。
こうした取り組みの中心を担うのが、熊野町にある「筆の里工房 」です。
筆の里工房では伝統工芸士による筆づくりの実演、筆づくり体験、筆に関する展示、絵画に関する企画展が開催されていますので、ぜひ一度訪れてみてください。
熊野町の筆づくり、日本の筆文化を感じて、あなたの1本を見つけてください。

紡ぎ手:かいな

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